②波形鋼板巻立て工法ではなぜ曲げに対するじん性が向上するか

(1) 波形鋼板巻き立て工法は
図-1に示すように波形鋼板下部フランジとフーチング上面の
間に間隙を設けず、波形鋼板のフランジ上に設けた形鋼を介してフーチングにボルト留めします。

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       図-1 波形鋼板巻き立て工法

(2) 波形鋼板を巻き立てた橋脚は図-2のような曲げ変形に対して以下の効果を発揮します。
ⅰ)アコーデオン効果により波形鋼板は圧縮されますので、波高は大きくなりコンクリート橋脚の
鉄筋のはらみだしを防ぎます。波形鋼板があたかも拘束鉄筋のような働きをします。
つまり拘束効果が大きくなりじん性を高めます。
ⅱ)橋脚の曲げ変形による波形鋼板の浮き上がりを防ぐためフーチング接触面において
波形鋼板のフランジを形鋼を介してボルト留めします。
波形鋼板のアコーデオン効果により形鋼で拘束しても橋脚基部の地震時曲げモーメントは
鋼板巻き立てと違って増加せず基礎への影響はありません。
参考文献1)によれば形鋼を用いた場合、横拘束筋の体積比は橋脚基部が形鋼で拘束されているので
以下のように上限値をとることができます。

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参考文献
1)既設道路橋の耐震補強に関する参考資料
1997年8月 日本道路協会

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    図-2 波形鋼板を巻き立てた橋脚の曲げ変形


ⅲ) 図-3に示すような塑性ヒンジが形成されることが大規模載荷試験で検証されています。
大規模載荷試験は三次元非線形有限要素法有限変形解析でシュミュレーションできることが
検証されています。
解析プログラムは実用化されており,塑性率なども求めることができます。

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   図-3 曲げ破壊における塑性ヒンジ長Lp


(3) 参考文献2)によれば写真-1に示すように連続繊維シート巻き立て工法では橋脚基部に曲げ破壊が
発生しています。。


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  写真-1 連続繊維シートの破断を伴う橋脚基部の曲げ破壊


参考文献
2)令和 6 年能登半島地震による長大橋梁の被害状況調査報告(第2版)
2024.2.8 ⾦沢工業大学 田中泰司


道路橋示方書では図-3に示すように曲げ破壊における塑性ヒンジは
基部からLp/2で発生するとされています。
連続繊維シート巻き立てがフーチングの境界面で破壊したのは
拘束効果が境界面に及ばなかったと推察されます。

(4) これまでも連続繊維シート巻き立てた場合、橋脚基部の補強法が提案されてきました。


参考文献3)では連続繊維を用いた場合,橋脚基部には工夫が必要としてその補強を図-4のように提案しています。
a),b),d)では基部の抵抗モーメントが増大し、基礎に想定以上の転倒モーメントが作用する恐れがあります。
また,c)では基部の拘束効果は連続繊維シートでしか得られないので,拘束効果不十分で写真-1のような基部破壊
が発生する可能性があります。
図-2のような波形鋼板巻き立て工法では過大なモーメントや拘束効果不足は発生しません。
     
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        図-4 橋脚基部の曲げ補強

参考文献
3)土木学会鋼構造委員会構造工学委員会コンクリート委員会鋼・コンクリート合成構造連合小委員会分科会
『 橋脚等の耐震補強の現状と課題~合成構造化による耐震補強』 1997年,1章


また参考文献4)では
「炭素繊維シート は引張強度が高いものの、破断ひずみが小さく伸 び性能が低いため、鉄筋コンクリート(RC)橋 脚の
基部のように高い変形性能が要求される部位 に対する曲げ耐力補強には適していない。」
として、基部には炭素繊維と鋼板を併用した補強法を提案しています。

4)炭素繊維シートと鋼板によるRC橋脚の耐震補強とその効果2009年
独立行政法人土木研究所 張 広鋒, 星隈順一,堺 淳一


(5) 波形鋼板巻き立て工法では橋脚基部で塑性ヒンジが形成されることが大規模載荷試験で
確認されています。
繊維シート巻き立てで耐震補強された橋脚に対しても波形鋼板巻き立て工法を適用すれば
曲げ破壊は防ぐことが期待できます。
この際アコーデオン効果により基礎に作用する転倒モーメントは増大しませんので
基礎への影響はありません。